ヒトをはじめ哺乳動物は、母親の胎内にいる間は、基本的に他の微生物が存在しない無菌の状態にある。生後3-4時間後には、外の環境と接触することによって、あるものは食餌を介して、あるものは母親などの近親者との接触で、あるものは出産時に産道で感染することによって、さまざまな経路で微生物が感染し、その微生物の一部は体表面、口腔内、消化管内、鼻腔内、泌尿生殖器などに定着して、その部位における常在性の微生物になる。一部の原生動物や古細菌を除き、その多くは真正細菌である。一般には常在細菌と総称されることが多い。このうち消化管の下部にあたる、腸管内の常在細菌が腸内細菌である。
腸内細菌は多数の雑多な菌種によって構成され、一人のヒトの腸内には100種以上(一説には500種類とも言う)100兆個の腸内細菌が存在していると言われる。一般にヒトの細胞数は60-70兆個程度と言われており、細胞の数ではそれに匹敵するだけの腸内細菌が存在することになる。ただし細菌の細胞は、ヒトの細胞に比べてはるかに小さいため、個体全体に占める重量比が宿主を上回ることはない。しかし、それでも成人一人に存在する腸内細菌の重量は約1.5 kgにのぼるとされる。腸管内容物を見ると、内容物1gに100億個から1000億個(1010-1011個)の腸内細菌が存在しており、糞便の約半分は腸内細菌か、またはその死骸によって構成されている。
腸内細菌叢とその構成 [編集]
ヒトや動物の腸は、摂取した食餌を分解し吸収するための器官であるため、生物が生育するのに必要な栄養分が豊富な環境である。このため、体表面や泌尿生殖器などと比較して、腸内は種類と数の両方で、最も常在細菌が多い部位である。この多様な細菌群は、消化管内部で生存競争を繰り広げ、互いに排除したり共生関係を築きながら、一定のバランスが保たれた均衡状態にある生態系が作られる。このようにして作られた生態系を腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)と呼ぶ。なお、この系には細菌だけでなく酵母など菌類や、細菌に感染するファージなども混在してバランスを形成しているため、腸内常在微生物叢、腸内フローラ、腸内ミクロフローラなどという用語がより厳密ではあるが、一般にはこれらの細菌以外の微生物も含めて腸内細菌叢と呼ばれることが多い。
ヒトや動物が摂取した食餌は、口、食道、胃を経て、十二指腸などの小腸上部に到達し、その後、宿主に栄養分を吸収されながら、大腸、直腸へと送り出される。このため、消化管の場所によって、その内容物に含まれる栄養分には違いが生じる。また消化管に送り込まれる酸素濃度が元々高くないのに加えて、腸管上部に生息する腸内細菌が呼吸することで酸素を消費するため、下部に進むほど腸管内の酸素濃度は低下し、大腸に至るころにはほとんど完全に嫌気性の環境になる。このように同じ宿主の腸管内でも、その部位によって栄養や酸素環境が異なるため、腸内細菌叢を構成する細菌の種類と比率は、その部位によって異なる。一般に小腸の上部では腸内細菌の数は少なく、呼吸と発酵の両方を行う通性嫌気性菌の占める割合が高いが、下部に向かうにつれて細菌数が増加し、また同時に酸素のない環境に特化した偏性嫌気性菌が主流になる。
消化管の部位の違いによるヒト腸内細菌の数(内容物1gあたり)はおよそ以下の通りである。糞便に排出される菌の組成は、大腸のものに類似している。
小腸上部: 内容物1gあたり約1万(104)個。Lactobacillus属、Streptococcus属、Veionella属、酵母など。好気性、通性嫌気性のものも多い。
小腸下部: 1gあたり10万-1000万(105-107)個。小腸上部の細菌に大腸由来の偏性嫌気性菌が混在。
大腸: 1gあたり100億-1000億(1010-1011)個。ほとんどがBacteroides、Eubacterium、Bifidobacterium、Clostridiumなどの偏性嫌気性菌。小腸上部由来の菌は105-107個程度。
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これらの腸内細菌の組成には個人差が大きく、ヒトはそれぞれ自分だけの細菌叢を持っていると言われる。ただしその組成は不変ではなく、食餌内容や加齢など、宿主であるヒトのさまざまな変化によって細菌叢の組成もまた変化する。
例えば、母乳で育てられている乳児と人工のミルクで育てられている乳児では、前者では、ビフィズス菌などのBifidobacterium属の細菌が最優勢で他の菌が極めて少なくなっているのに対して、後者ではビフィズス菌以外の菌も多く見られるようになる。このことが人工栄養児が母乳栄養児に比べて、細菌感染症や消化不良を起こしやすい理由の一つだと考えられている。
乳児が成長して離乳食をとるようになると、Bacteroides属やEubacterium属など、成人にも見られる嫌気性の腸内細菌群が増加し、ビフィズス菌などは減少する。さらに加齢が進み、老人になるとBifidobacterium属の数はますます減少し、かわりにLactobacillus属や腸内細菌科の細菌、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)などが増加する。
腸内細菌はヒトだけでなく、消化管を有するさまざまな動物にも存在するが、その組成は動物種によって異なる。基本的にはいずれもBacteroides属などの偏性嫌気性菌が優勢であるが、ヒト、サル、ニワトリなどでは乳酸菌としてビフィズス菌の仲間が多いのに対して、ブタ、マウス、イヌなどでは乳酸桿菌(Lactobacillus)が多く、ネコ、ウサギ、ウシなどではどちらの乳酸菌も少ない。